母はここ何十年、何度お世話になったかわからない近所の病院に
入院しているのだが、今回は個室はおろか内科病棟がいっぱいで、
産婦人科病棟に入っている。
夕方の新幹線に乗るために、息子とふたり実家を後にして、駅の
そばの病院までもう一度母の顔を見に行った。いよいよ帰ろうと
廊下に出たら、若い看護士さんが駆け寄って話しかけてきた。母
の病状を主治医の先生がどう話していたか、心配していたようだ。
母は、私と息子が来ることを何日も前から楽しみにしていたらしい。
若い妊婦さんたちの中に混じって場違いな入院患者となった母だけ
ど、「ご主人がよくお見舞いにいらっしゃるでしょう? 年をとっ
ても仲がよくて、理想の夫婦だねと話しているんですよ」と、看護
士さんは話してくれた。きっと母も父も、周りの若い方々から元気
をもらっているのだろうと、ちょっと安心した。
さて、きょうは朝早くから静岡まで日帰り出張している夫と最寄の
駅で待ち合わせる予定だったが、新幹線が京都駅に着く直前に携帯
に連絡が入った。なんと夫は財布の入ったカバンを忘れて京都駅に
下りてしまい、新大阪駅まで取りに行かなくてはいけないという。
ただし、財布がないので、私が京都に到着するのを待っていると。
結局、京都駅で合流して、三人でまた新大阪に後戻り。あと10分で
閉まるという事務所で、無事にカバンを受け取った。帰宅時間は大
幅に遅れたが、予定より早く父親と合流できた息子は嬉しそうだった。
もちろん、私も。三人で新大阪まで小旅行。楽しかった。
周りの人から、理想の夫婦と言われるまでにはまだまだ道のりは遠い
のだ。
*実家を出て駅に向かう私たちを、父がじっと見送っていた。