せっかくなので、高1の夏に訪れたスコットランドの思い出を書こうと思う。私は憧れのアイドルのお母さんからハガキをもらったことがあった。日本の雑誌が彼の実家を取材して、ご両親はエジンバラのメドウス通りに住んでいて、お母さんは息子のファンとの交流を楽しんでいるというようなことが書いてあったのだ。それを見た私はダメ元で、メドウス通り宛てにファンレターを出したら、なんとお母さんからお礼のハガキが届いたのだ!
スコットランドに行ったら、メドウス通りのお家に行きたい!・・・というのが私の願いだった。イングランドのホームステイ・ツアーに参加した約10人(だったか?)の日本人グループと共に二泊三日のエジンバラ旅行に行った私は、昼間だけ、みんなとは別行動をとった。
初日は、知り合って間もないペンパルに会いに行った。彼女がテレビドラマ『西遊記』が好きだと言うので驚いた記憶がある。それから、私の好きなアイドルの実家への行き方も教えてもらった。なんと、彼のご両親はすでにメドウス通りのフラットから、ちょっと郊外の一戸建てに引っ越していた。
翌日、私はペンパルに教えてもらった住所を手に、最寄のバス乗り場に行った。そこに立っていたおじさんに、「ここに行きたいのだけど、このバスで大丈夫か?」と質問したら、おじさんは「私と一緒にいれば大丈夫」と、その後、一緒にバスに乗ってくれて、ここで降りなさいと教えてくれた。おじさんの目的地は、偶然にも私と同方向だったのだろうか。それとも私を目的地まで届けるために、わざわざ一緒に来てくれたのだろうか。
お陰で私は無事に大好きなアイドルの実家に到着。呼び鈴を押すと、雑誌で見たことのある女性が出ていらした。私が日本から来たというと、「これにサインしてちょうだい!」とゲストブックを差し出された。少しお喋りをして、玄関先でお母さん、お父さん、それぞれと記念撮影をした。最後に宿泊先の大学寮の住所を見せ、どのバスに乗ればいいかを教えてもらって、お暇した。
教えてもらった番号のバスに乗り、運転手さんに住所を見せて、「ここに行きたい」と言ったら、「そこに座ってなさい、降りるときに教えてあげるから」と言うので、私は運転席のすぐ後ろの席に座った。途中、別のバスとすれ違ったとき、運転手さんはクラクションを鳴らして、反対車線のバスを呼びとめ、大きな声で何か話していた。たぶん、私をどこに降ろせばいいか、訊いてくれていたのだと思う。しばらくして運転手さんが、「ここで降りなさい」と教えてくれた。降りてからの道順も教えてくれていたようだが、よくわからないまま、お礼を言った。降りた場所にバス停はなかったので、運転手さんが親切にも、一番近いポイントで降ろしてくれたのかも知れない。
だが降りるてみると、朝、バスに乗った場所とはまったく景色が違っていて、私には大学寮がどちらの方向にあるのかすら、わからない。地図を広げて調べていたら、絵に描いたような英国紳士が通りかかり、「どこに行きたいのですか?」と声をかけてくれた。その方のお陰で、無事に私は大学寮に戻ることができた。
わずか二泊三日のスコットランド旅行だったけど、出会った人すべてがあまりに親切だったことに私は驚嘆した。それも、いかにも親切にしているという感じがまったくなくて、みんな、当たり前に親切なのだ。イングランドでも親切な人は多かったけど、自分が有色人種であることを常に自覚させられている感覚があった。だけどスコットランドでは、人種の違いを感じることなく、単に人として親切に接してもらっているような気がしたのだ。もしかしたら、私のアイドルへの思いがスコットランドを特に美化して見せていたのかも知れないけど。あるいは、時に英語とは思えない、ものすごいスコットランド訛りのせいで、意志の疎通ができただけでも感激が倍増したのかも知れない。
でも素朴なスコットランド訛り、私は今も大好きだ。
*先日の美大のカフェの帰りに見かけた、ヴォアイアンの残骸(!?)