さらにバブル期の思い出をもうひとつ。
当時、東京の外資系企業もバブルに浮かれていたけれど、本国から来ている外国人スタッフに比べたら、私たち日本人スタッフは地味なものだった。といっても、たまに女子グループでお昼休みにタクシーでイタリアンを食べに行ったり、今思うとバブルだなぁと思うことをしていた。日本人上司も高級外車を乗り回していたり、外国人上司たちは金曜のお昼になると、アメリカンクラブ(*会員制の社交クラブ!)にランチに出かけて、午後の遅い時刻に赤ら顔で帰ってくる…なんてことも。会社の年末のパーティは東京湾クルーズで、イブニングドレスで現れた女子もいてビックリ。
私自身はある目的のためにそれまで貯めたお金をほぼ使ってしまったので、かなり地味な生活をしていたと思うが、さすがに新入社員の頃に比べると余裕はあった。それでも、普通に電車で通勤して、高級レストランに行くことも滅多になかった(誰かに誘われない限り)。
なぜか学生時代からの友人は、マスコミ関係、特に出版社に就職した人がたくさんいて、彼女たちに会うと、いつも華やかな空気を感じた。もともと華やかな人たちがマスコミの世界に入るのかも知れないけれど、当時は今と違って(失礼!)本当に華やかだった。お給料の額は知らないけれど、とにかく「経費は使い放題」という感じだった。(実際、どうだったかわからないけれど、少なくとも傍から見ていて。)だから、近所に住んでいた編集者の友達と出かけると、いつも帰りは一緒にタクシーに乗せてもらえた!
そんな編集者の友達にステーキハウスに連れて行ってもらったことがある。おしゃれなホテルのお店でもなく、高級感漂うレストランでもなく、老舗の小さな、地味だけど本当の意味で高級なお店だったのだと思う。なにせ友達は有名作家さん方の接待のために、このようなお店に出入りしていたのだから。
出かけたのは、土曜日の遅めのランチタイム。カウンターだけの小さなお店で、目の前の鉄板でシェフが黙々とステーキを焼いてくれる。こんなお店、私は初めってだったし、どういう理由だったのか、その日は友人とその先輩編集者の方と3人だったので、いつもより緊張していた。一応、私は接待されている方なのに、こちらも接待しなきゃ…となぜか一生懸命、お喋りを始め、いつのまにか、家を出る前に見たばかりのNHK『バラティ生活笑百科』での上沼恵美子のトークを再現していたのだ。残念ながら上沼恵美子氏は2013年に番組を降板してしまったが、それまでは毎週、「実家が大阪城」だとか、「フランス生まれ」だとか、荒唐無稽の大ホラ話で視聴者を楽しませてくれていたのだ。その日のネタも、もう覚えていないけど、かなりの爆笑ものだったはずだ。ネタ自体は作家さんが書いているのだが、上沼恵美子が喋るから、あれほど面白いのであって、私では100%再現はできないのだが、それでも友人たちは楽しんでくれた。
さて、トークが終わった頃に出て来たステーキは絶品だった。「生まれて初めて、こんなに美味しいお肉を食べた~」と感激して食べ終えた! すると、ずっと無口だったシェフが最後に、「お客さん、絶対テレビに出た方がいいよ」と私に言うのだ。「え!?」と呆気にとられていると、「さっきの話、ものすごく面白かった!」とおっしゃるので、「いえいえ、だから、さっきの話は本当にテレビでやってた話なんです。それを真似して喋っただけなんです!」と説明したのだが、「いや、それでも出た方がいいよ!」と。
トークの神様、上沼恵美子氏の真似をした私としては、恐れ多くて、そそくさと退散したのを覚えている。そのせいか、いまだにあのお店がどこにあったか、思い出せない。ほんとに美味しかったんだけどなぁ。