1989年、フランス語もわからないのにパリに渡った私が、フランス語がわからないまま映画館で見たフランス映画、エリック・ロシャン監督
の『愛さずにいられない(un monde sans pitié)』。そこら中にこの映画のポスターが貼ってあって、それで見たくなったんだっけ!? アパルトマンの近くには映画館がいくつもあって、週末になると夜遅くまで上映していたので、言葉がわからなくても映画はたまに見に行っていたのだ。田中好子主演の『黒い雨』や、江戸川乱歩原作の『屋根裏の散歩者』も、近所の映画館で見た。たぶん日本にいたら、見ることはなかったかも知れない。
で、この映画。イポリット・ジラルド演じるチンピラのようなチャラ男、イッポが彼とは住む世界が違うインテリ女性に惚れてしまうという恋愛ドラマ。イッポみたいな男は好みのタイプではないし、現実世界ではけっこうムカつくキャラだと思うけど、俳優さんの魅力のせいなのか(!?)、なんとなく目が離せなくて、キザな振る舞いもプッと笑えてしまう。フランス語はわからなくても、パリの街と、めくるめく恋の空気が感じられるだけで、うきうきしてしまう映画だった。
妙に気に入って、しかも内容をきちんと知りたかったので、帰国後に日本の映画館に再度、観に行ったように思う。ビデオも持っていたはずだけど、何年も前にビデオやレーザーディスクはすべて処分してしまった。その後、この映画のことを思い出し、もう一度観たいと調べたけれど、残念ながらDVD化はされていないようだ。YouTubeにはオリジナル版がアップロードされているが(これ違法!?)、私は日本語字幕版をもう一度観たい!! DVD化は無理でも、どこかの有料映画専門チャンネルが放送してくれることを切に願う!!
といっても、正直言えば、私にとって、この映画の内容はたいして問題ではなかったのだ。私が何度も思い出すのは、パンテオンがどか~んと映るところから始まるオープニングのシーン。パンテオンからリュクサンブール公園近くのカフェ(Le Rostand)が映り、イッポが闊歩する通りもなんとなく見覚えがあるような気がして…まさに私の生活圏が舞台だったので、忘れられない作品だったのだ。
オデオンからリュクサンブール公園方面に向かう途中に、(たぶん)ベトナム華僑が経営する安くておいしい中華屋さんがあり、そこでセットメニューを食べるのが、映画館に行くのと同じくらい当時の私にとってはささやかな楽しみだった。スープは必ず酸辣湯。ああ、あの酸辣湯をもう一度、食べてみたい!
おしゃれな映画から中華の話になってしまったけど、次回はリュクサンブール公園の思い出について書こうと思う。
(*ちなみに2010年7月5日の日記でも、このお店に触れている。)
ちなみに、もうひとつ、この映画で忘れられないシーンがある。イッポと彼女が、夜、窓からエッフェル塔を眺めていて、イッポが指を鳴らすと、エッフェル塔の灯りが消えるという・・・。ね、キザでしょ!? 笑っちゃうでしょ!? でも、そこがいいんだなぁ、不思議なことに。ああ、イッポ、現在、62歳。どっひゃ~。