近年、いろいろな英米のドラマを見てきたが(といっても自分の興味をそそるものだけ見ているので、超有名作品で見ていないものもたくさんある)、その中でも秀逸なのが第二次世界大戦前後のイギリスの様子を描いた『刑事フォイル』だ。イギリス南部の海に面したヘイスティングスの街で、愚直なまでに公明正大に生きる刑事フォイルを中心に、戦争下の悲劇や不条理などが描かれる。ヘイスティングスは戦場ではないし、戦闘場面は殆ど皆無にも関わらず、一般の人々が(国籍や人種を問わず)いろいろな意味で戦争に翻弄されている様子が実にうまく描かれている。戦争をいろいろな角度から切り取って見せてくれる脚本家、アンソニー・ホロヴィッツの力が大きいのだろう。
もちろん主役の刑事フォイルを演じるマイケル・キッチンが渋くて、これまた素晴らしい。口をちょこっと歪ませながら話す癖がなんともいえない。いつも冷静で、公平で、趣味といえば川で釣りをすることくらい。マイケル・キッチンを調べてみると、ロバート・レッドフォード&メリル・ストリープ主演の『愛と哀しみの果て』(原題:Out of Africa:1985)に出演していたようだ。映画館で見たはずなのに、悲しいかな私は覚えていない。ロバート・レッドフォードよりいい男なのに!!!
『刑事フォイル』、今ではNHKのBSでも放送されているようだが、私は字幕版を見たいので、AXNミステリーで見ている。(そう、NHKは英米ドラマの字幕版がまずないので、私は見ることがない! WOWOWも字幕版がないドラマがあるので、とっても残念。基本的に海外モノはどの国のものであっても、字幕で見たいと私は思う。)というか、私はAXNミステリーで放送された『刑事フォイル』の全話を録画して、DVDに焼いて、保存版にしている。その作業が終わったあと、実はしばらくそのDVDをしまったままだった。どのエピソードもすばらしいので、全話を見てしまうと、もう楽しみがなくなってしまうから、その楽しみを引き延ばしていたのだ。しかし、さすがにそれもどうかと思い(だって、次々と面白いドラマが放送されるのだから)、この冬休み中にじっくりと最終話まで見るつもりだ。
『刑事フォイル』に限らないが、イギリスのドラマを見ていると、時々、ゲスト出演している有名俳優に出くわすという楽しみがある。アメリカと違って、イギリスのドラマは特に(日本と同じかも知れないが)同じ俳優さんがあちこちに出てくる。『主任警部モース』や『バーナビー警部」、『名探偵ポワロ』等、有名な長寿ドラマに、「あ、あの人が!」という発見はよくある。『刑事フォイル』も、まず第一話(2002)で映画『ゴーン・ガール』(2014)でアカデミー主演女優賞にノミネートされたロザムンド・パイクがゲスト出演している。映画を先に見ていた私は、『刑事フォイル』を見て、ロザムンド・パイクがイギリス人であることを知った。(しかもオックスフォード大学卒の才女!)つい最近見た第22話には、『シャーロック』のモリアーティ役で有名なアンドリュー・スコットが! そうそう、フォイル刑事の息子アンドリューは、『ダウントンアビー』や『パーソン・オブ・インタレスト』で見たことのあるジュリアン・オヴェンデンが演じている。彼は音楽の奨学生としてイートンからオックスフォードへ。イギリスの俳優さんって、高学歴が多い!
『刑事フォイル』がこれだけ素晴らしい作品となったのも、俳優陣の演技力はもちろんだけど、やはり脚本の力だろう。アンソニー・ホロヴィッツは『名探偵ポワロ』や『バーナビー警部』も手がけているそうだが、もともとは小説家だそうだ。今度は彼の小説を読んでみなければ。
ちなみに彼が手がけた新作『ニューブラッド 新米捜査官の事件ファイル』(2016)は、それぞれロンドンの重大不正捜査局(Serious Fraud Office)と警察で働く新米捜査官二人が、ひょんなことで知り合って、事件を解決していくという物語。刑事フォイルは正統派イギリス紳士だったが、今回の主役はポーランドとイランの移民2世。時代は移っても、イギリスのドラマは面白い!