先生の何気ない一言が生徒を傷つける

土曜出勤の夫は、職場の人とお昼を食べて帰るというので、私は合唱の練習を終えた息子を迎えに行き、ふたりで近くの大学の学食に向かった。息子がここのパングラタンを食べたいと言うのだ。学食といっても、美術大学のせいか、とってもおしゃれ。学生たちが建てたログハウス風の建物に、ダンボールで作ったオブジェのような照明、薪ストーブやソファもあり、遠く湖が見渡せる。大きなガラス戸からテラスに出ると、散歩道があって、そこにまたもや不思議なオブジェがある。一列に腰を下ろして、湖を眺めている人たちの彫刻だ。(タイトルは「湖を見るヴォワイアン」)

私は高校の選択授業で美術をとっていた。美術の才能はなかったけれど、音楽の方がもっと苦手だったのと、美術好きの友達が多かったのが理由だ。普段は友達と喋りながら、楽しい時間を過ごしていたのだが、一学期かけての自由制作の課題を課せられた。友達は本格的な油絵の制作に取り掛かっていたが、私はどんな時間をかけても素晴らしい絵が描けるとは思えず、これはもうアイデア勝負でいくしかない・・・と考えた。

そのとき私はスコットランド出身のアイドルバンドに夢中だったので、そのアイドルのポートレイトを作ろうと思っていた。そして、私の思いのたけを伝えるには、どんな手法をとればいいだろう・・・と四六時中考えていた。いいアイデアが浮かばないまま、日にちだけが過ぎていたのだが、ある日、学校帰りの電車の中で瀬戸内海をぼ~っと眺めていたら、ふと迷彩服の兵士の姿が浮かび、「これだ!」と思いついた。(米軍基地のある岩国発の電車だったせい!?)

私が大好きなアイドルの切り抜きを使って、コラージュの手法で大きな肖像画を作るというのが、そのアイデアだった。顔や頭髪部分をよく見ると、そのアイドルのシルエットが迷彩模様のように描かれていて、どこを見ても、そのアイドルだらけ・・・と、まさに私の溢れんばかりの思いを形にするのだ!

そう思いついたら、あとは作業に没頭するだけ。父の透写台を借りて、一番のお気に入りの特大ポスターをトレースし、その後はたくさんの切り抜きの輪郭をなぞり、下絵ができたら、ポスターカラーを延々と塗る。どのパートも大好きなアイドルの姿なので、ひとつひとつ丁寧に、愛情こめて、少しずつ色を変えて塗っていく。実に楽しい作業だった。

ようやく完成した作品に、我ながら大(自己)満足していたのだが、作品発表会で私の達成感はずたずたにされた。各自が自分の作品をみんなの前で発表し、それに先生がコメントをつけるのだが、私の説明を聞いた先生はこうコメントした。「どうせ何かのパクリでしょ」

頭の中に迷彩服が浮かんで、「これだ!」と思った瞬間を説明して反論したいと思ったけれど、私の心は傷ついていて、結局、何も言えなかった。別に私の作品を認めてもらわなくてもいいけれど、私が作品にこめた思いまで否定されたようで、悲しかったのだ。だから、この年になっても、しつこくこのことを覚えている。

そのせいなのか、アートは好きだけど、その後、自分で作品を作ろうと思うことはなくなった。って、単なる言い訳かな。

*これが美大の学食
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*息子と「湖を見るヴォワイアン」の一部
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