うちの息子はまだ乳歯が生え始めの頃、カーディーラー店のツルツルの床の上で滑って、上の前歯3本が歯茎にめり込んだ。しかし、しばらくすると、歯茎からまた歯が出てきて、ほっとしたのだが、その後、3歳を過ぎた頃、保育園でまたも転んで前歯を打って、その後、上の前歯が2本、抜けてしまった。そのとき歯科で診てもらったら、「永久歯の芽のようなところを傷つけていたら、生えてこないかも知れないが、その時期になってみないとわからない」と言われた。
結局、息子はその後の数年間を「歯抜け」状態で過ごすことになった。上の前歯がないので、たとえば熱々のチキンにかぶりつくとか、そんなことは出来なかったはずだ。満面の笑みも、「歯抜け」のせいでどこか間抜けな感じだったが、まあ、それも今となってはいい思い出だ。
息子は、歯科の匂いや音など経験したせいなのか、あるいはもっと以前からの印象のせいなのか、とにかく歯の治療は痛くて怖いと思い込んでいて、小さい頃から歯磨きはきちんとやっていた。虫歯にだけは、なりたくなかったらしい。(ま、病院全般、怖くて嫌みたいだけど)
その後、心配していた前歯の永久歯もきちんと生えて、息子はようやくきちんと歯も生え揃い、しかも虫歯のない小学校生活を送っていたのだが、小学校の最後になって学校の歯科検診に引っかかってしまった。せっかく生えた上の前歯がどんどん出っ歯になってきて、矯正が必要だと指摘されたのだ。確か5年生で指摘され、そのまま放置していたら6年生でさらに出っ歯度がひどくなったようで、再度、指摘され、息子が大嫌いな歯科を再び訪れることとなった。そこで言われたのは、「矯正歯科の専門の先生に診てもらう必要があるが、もしかしたら抜歯が必要になるかも知れない」ということ。息子の顔から血の気が引いた。虫歯の治療はもちろんだが、抜歯なんてことだけは絶対に経験したくないから、今まで毎日きちんと歯磨きをしてきたというのに、歯を抜かれるかも知れないのだ。虫歯は一本もないのに…。息子のこれまでの全人生の努力はなんだったのか!?(って大げさ!?) さすがに私もちょっと息子のことが気の毒になった。私よりずっと丁寧に歯磨きしていたのだもの。
当時、中学受験を控えていたこともあり、また歯科医から「永久歯がすべて生え揃ってから、どういう矯正をするか決めた方がいいかも知れません」とアドバイスされたこともあり、矯正は中学入学後に検討することとなったので、息子はとりあえず小学校生活の最後は歯科とは無縁で過ごすことができた。
そして中学生になった初めての夏休み、ホームページをチェックしてアポをとった学校近くの矯正歯科で、「抜歯せずに矯正できる」と言われ、息子はそこに通うことになった。最初の3年間は毎月1回、通って、痛そうな器具を装着して、専用の歯ブラシ等で歯磨きも丁寧に行った。矯正歯科で撮ってもらったビフォー・アフターの写真を見ると、前歯の矯正のプロセスがよくわかった。自分の息子ながら、真面目で優秀な患者だったと思う。文句も言わずに、よく頑張ったと褒めてやりたい。(インビサラインという矯正装置を使っているらしい。)
その矯正歯科も腕のいい、きちんとしたところだったのだと思う。私も同伴した最初のカウンセリングで納得したから、そこを選んだのだが、その後、あれよあれよと患者さんが増えたのか、1年後には息子の学校近くのビルの1室から、市の中心部の自社ビル(だと思う)に移転して、歯科医の数も倍以上に増えているらしい。
高校になってからは、3ヶ月に1度、通っているのだが、その間、とうとう一箇所、虫歯になってしまった。矯正歯科でのチェックの頻度が減ったこともあるのだろうが、やはり装着器具のせいで、きれいに歯磨きができていなかったようだ。しかし息子ももう高校生。怖がることなく、矯正歯科に紹介された歯科に行き(当たり前だが)、あっという間に治療をしてもらった。予約もすぐに取れたし、治療も痛くなかったし、良心的な歯科だったらしい。
このまま無事に歯科矯正も終了するかと思いきや、昨年末に矯正歯科に行った際、息子は親知らずが出てきていることを指摘されたらしい。そして、「今のうちに歯科で抜いてもらってください。受験生になったら大変でしょう?」と言われたらしい。またもや「抜歯」と聞いて恐怖におののいた息子は、歯科に行くのをずっと先延ばしにして、ようやくこの春休みの終盤に受診したのだが、そこでまたもや恐怖の宣告をされた。「下の親知らずが普通に抜けない場所にあり、神経に近いところでもあるので、大学病院の口腔外科に行ってください。」
一応、左右上下の親知らず4本とも抜く予定なのだが、下あごの親知らずについては「抜歯手術」となるらしい。春休みの最後に、大学病院の口腔外科に行って検査をしたものの、念のため、今週もう一度CTを撮ることになったようだ。そしてその後、抜歯手術となるらしいのだが、なんという高校3年生の始まりだろう。(そういえば、息子はかつて中学3年生の始業式の途中に腹痛を訴え、そのまま入院して虫垂炎の手術を受けたのだった。)
あんなに歯医者に行かなくてもいいようにと、一生懸命、歯磨きをしてきた息子が口腔外科通いをすることになろうとは!!!
しかし、これ、もしかしたら「歯医者に行きたくない」という思いが強すぎたことで、逆に引き寄せてしまったのかも…と思ったり。(エイブラハムの本によれば、「ものすごく求めていること」も「ものすごく求めていないこと」も、同じように引き寄せるのが引き寄せの法則。ポジティブであろうがネガティブであろうが、思いの強さが問題なのだ。)
ま、でも、こんなことでもなかったら、大学病院の口腔外科の世界を見ることもなかったのだから、何事も経験と思うしかないよね、わが息子!
*ちなみに、矯正歯科に紹介された歯科は本当に良心的なところみたいで、春休みに受診した際、レントゲンを撮って検査して、大学病院への紹介状を書いてもらったのに、料金はまったくとられなかったそうだ。