夜の新幹線に乗り、故郷へ向かった。長いことひとり旅が当たり前
の私だったが、夫も子供も残してのひとり旅は結婚以来、初めてだ。
新幹線を下りて、在来線に乗り換えた。土曜の夜11時台の電車は意
外と混んでいて、私はドアの脇に立って、雑誌を読んでいた。電車
に乗ること自体、久しぶりだ。
数駅過ぎたところで、どこからともなく現われた若い男性が、めざ
とく空席をみつけて座ろうとした。私のすぐ背後の席だ。一番近く
の私以外にも、周囲には女性が何人も立っているのに、その若者は
躊躇せず、割り込んできて席をとった。
近頃の若者は…なんてセリフは言いたくないけど、女性をさしおい
て、若い男がさっさと席を分捕るとは…と心の中で憤慨した。
その後、大勢の人が電車を降り、彼の並びの席にやっと座った私は、
彼が席につくなり必死で読んでいた雑誌を覗いて驚いた。私がこの
間、翻訳した記事ではないか!
「そんなくだらない記事を読むために、ずうずうしく席とるんじゃ
ねぇ!」--と、私はいっそう憤慨した。(本当に、内容がいまひ
とつだったんです。)