小柳つかささん(記憶障害の花嫁)

最初に断っておくが、私はTBSという企業は嫌いだし(あちこちで目にした情報を信じれば・・・だけど)、『報道特集』という番組もキャスターが私の苦手な人(金平氏)になってからは一度も見たことがなかった。たまたまきょうの夕方、父の老人ホームから実家に戻って、ふとテレビをつけたら、愛らしい車椅子の女性の姿が目に入り、ついついそのまま見ていたら、それがTBSの『報道特集』だったのだ。途中からだったので、よくわからなかったのだが、これは17歳のとき、交通事故で半身麻痺記憶障害となった女性の暮らしぶりを追ったドキュメンタリーだった。

彼女は北海道在住で、現在28歳。最近、バリアフリーの家でひとり暮らしを始めたらしい。言語障害も残っているけど、ゆっくりと喋る彼女の言葉は前向きで、ユーモアがあって、そして何といっても彼女の笑顔が本当に愛らしくて、私はその、鼻にしわを寄せるチャーミングな彼女の笑顔を見たくて、ついついそのまま画面に見入ってしまったのだ。

自宅に帰るために彼女が乗ったタクシーの運転手さんが、彼女に一目惚れ(たぶん)してしまい、やがてふたりは恋人同士に。結婚を決めるも、親から反対され、強硬に(?)「できちゃった婚」の道を選んだ。妊婦となった彼女は、今まで母親等に頼っていた家事もなるべく自分でやろうと懸命にがんばる。車椅子で掃除したり、片手だけで洗濯物をハンガーにかけて干したり・・・。「奥さんになるんだから、ちゃんとがんばる。障害者だから家が汚いと言われないように、がんばる」と、本当に一生懸命に家事に取り組む彼女の姿が愛おしくて、旦那さんとなるタクシー運転手さんが彼女に惚れた気持ちがよ~くわかった。

今後のことを心配する母親にも、「前向きにいかなきゃダメよ」って、鼻にしわを寄せて笑う彼女。産婦人科の定期健診に行き、腹部エコーの写真を撮ってもらったときは、お腹の赤ちゃんがこっちを向いていることに喜び、「カメラ目線で、優秀です!」って、生まれてくる子供宛ての日記に書き綴っていた。赤ちゃんが男の子だとわかると、「男の子はお母さんに似ると、かっこよくなるんだよ・・・」とも。

結婚式も終えて、いよいよ出産・・・帝王切開で無事に健康な男の子が生まれた。そのことを聞いて喜んでいたつかささんが、突然、急性妊娠脂肪肝で意識不明に。ご主人は生まれた赤ちゃんをつかささんの胸に抱かせ、励ましの言葉をかけ続けていたが、つかささんはそのまま意識が戻ることなく28歳の生涯を終えた。

急性妊娠脂肪肝とは、数万人に一人が発症するという、かなり珍しい病気だそうだ。そこにいた誰もが、まさかこんなことになるとは予想していなかったはずだ。もちろん、つかささん自身も。私も呆気にとられ、神様はなんてひどいことをするのだと、泣いてしまった。あのチャーミングな笑顔を息子さんに見せることなく、逝ってしまうなんて。

実は、この出来事は今年の始めのこと。つかささんは1月28日に出産し、その一週間後に亡くなった。この思わぬ展開を受け、北海道テレビはこの番組をお蔵入りにしていたのだが、その後、「つかさだったら、この病気のことをみんなに知ってほしいと思ったはず」という遺族の言葉を受けて、遅ればせの放送を決めたという。

番組の最後に、つかささんのご主人と息子さんの現在の姿が映し出された。それを見て、私は号泣してしまった。生前のお母さんの笑顔を見たことのない彼女の息子さんが、彼女と同じように鼻にしわを寄せて笑ったからだ。彼女とまったく同じ笑顔。彼女が言っていたように、お母さんによく似た彼はきっとかっこいい男の子に育つだろう。

おそらく、この笑顔を見たら、残されたご主人もきっと元気に生きていける。こんなすばらしい笑顔を残していくなんて、つかささんはものすご~い大仕事を成し遂げたのだ。そう思うと泣けて泣けて仕方なくて、声をあげて、おんおん泣いてしまった。

疲れて横になっていた夫と、夏休みの宿題をしていた息子が、ビックリしていたけれど、偶然にもこの番組を見て、つかささんの笑顔を見られたことに感謝している。本当に悲しいけれど。

*これも琵琶湖。風車は動いてないみたい。
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記憶障害の花嫁 抱きしめたいー真実の物語

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