母校の大学からメールが届き、卒業生用のホームページにアクセスした。
もう20年以上も経っているとは…。テレビを見るとお受験を目指す子供たち
が映っている。
田舎から東京に出てきた垢抜けない女子大生だった私が、友達に連れられ
て行った「ツバキハウス」のロンドンナイト。そこで紹介されたのがTちゃん
だった。華のある美人だけど、きさくな社交家。しかも彼はロックバンドの
メンバー。そんなTちゃんがなぜ私と仲よくしてくれたのかわからないけど、
それからたまに連絡をとりあうようになった。
彼女が彼と一緒に暮らすアパートを訪ねたある晩、彼女が自転車を押しながら
青山一丁目の駅まで私を送ってくれた。同年代なのに彼女は自分の生活はもち
ろんのこと、バンドだけでは苦しい彼の生活も支えていた。その住まいは世間
的には安アパートの域を出ないだろうが、親からの仕送りで風呂なし四畳半ア
パートに暮らす私から見たら憧れだった。このエリアで自活する彼女はカッコ
よかった。
暗い夜道をふたりでお喋りしながら歩いていたら、突然、おまわりさんに声を
かけられた。明らかに盗難自転車と疑って、Tちゃんに身分証を出せという。
その態度はかなり高圧的だった。ところが、手ぶらで家を出たTちゃんに代わ
って身分証を求められた私が学生証を出したところ、おまわりさんは態度をガ
ラリと換え、やさしく私たちを解放してくれた。
私はなんとも言えずいや~な気持ちになった。
それから年月が過ぎ、東京を離れた私と彼女が再会したのは大阪城ホールの楽
屋だった。あの日、青山一丁目の駅で別れた直後、Tちゃんの彼のバンドはメジ
ャーデビューを果たし、その後、日本ロック史に名を残すバンドとなった。再
会した彼女は妻、母、そして仕事上のパートナーとしての役割をりっぱに果た
し、個人的な夢も実現していた。しかも明るく、やさしく回りに気を配る姿は
昔と変わっていない。
ほら、やっぱり彼女はすごいでしょ!と、私は世界中の人に自慢したいような
誇らしい気持ちでいっぱいだった。
今もときどき彼女のことを思い出すと、元気になる。そんな彼女に私も言われ
た。「厚子ちゃん、変わらないね~」。ああ、いまだに垢抜けない私…。
*変なつらら。