薬害エイズ事件

2月7日のブログで、薬害エイズ事件をテーマにした小林よしのり氏の『ゴーマニズム宣言 脱正義論』を紹介した。この運動の中で、小林氏は帝京大学の安部英医師を極悪人のように描いていた。小林氏だけでなく、ほぼすべてのマスコミはずっと安部医師がA級戦犯であるかのように報じていた。今でもこの認識のままでいる人が多いのではないか。

実は薬害エイズ事件に関する書籍で、私が『ゴー宣』よりだいぶ前に入手していたものがある。それが『安部英医師 薬害エイズ事件の真実 誤った責任追及の構図』(武藤春光、弘中惇一郎 編著)だ。非加熱製剤でエイズに感染した血友病患者(一名)がその後、死亡したことについて業務上過失致死罪で起訴された安部医師は、裁判で無罪となった。この本は、安部医師の弁護団と当時、厚生省の生物製剤課長だった郡司氏、ミドリ十字の元社員の岡本氏が執筆している。

当時、上っ面の報道しか見ていなかった私は、なんとなくだが「医師や厚生省のお役人や製薬会社の癒着や怠慢が原因でこういう悲劇が起こったに違いない。許せんことだ」と思っていた。その後、何年もたってからNHKで川田龍平氏と郡司氏の対談番組を見たときも、最後まで謝罪しなかった郡司氏を見て、憤りを感じたことを覚えている。

ところが、何かの拍子でネットでたまたまこの本のことを目にして、もしかして私はまたもマスコミに騙されていたのかも・・・と思い、すぐにこの本を入手したのだ。なのに、ずっと未読のままだったのは、私にとって読みにくい本だったからだ。横書きの上に、弁護士さんの文章だからなのか、やたらと句点が多い。事件の全容を解明するためとはいえ、同じ内容が何度も出てくる。とは言え、いったん読み始めれば、すんなり読み終えることができたのだけど。

結局、私は購入時期とは逆に、『ゴー宣』読了後にこの本を読んだ。被告の弁護士が書いたのだから、被告を擁護するのは当たり前だが、それを差し引いても、薬害エイズという悲劇が引き起こされた構造的問題、そしていびつな犯人探しと過剰な糾弾という大きくて深い問題を目の前に突きつけられた。当時の厚生大臣だった菅氏のパフォーマンスや、マスコミの過剰な個人バッシング、その背景にあった盛り上がる市民運動、そしてそんな世論におもねるかのように最初から出来上がっている台本通りに話を進める検察・・・。齋藤健氏の『転落の歴史に何を見るか』を読んだ後だけに、この国は何度、同じことをしているのだろうか・・・と寒々とした気持ちになった。いや、本当に恐ろしくなった。

だって、いまだに「薬害エイズ事件」の真実は広く知られていないと思うから。(弁護団の話が全面的に正しいとは言わないけれど、少なくとも、マスコミ報道を受け入れてきた人は、弁護団の話も聞いてみるべきだと思う。)今思えば、あのNHKの対談番組で自分の責任は認めながらも、最後まで謝罪しなかった郡司氏(元厚生省)はすごいと思う。あれだって、番組の意図に沿って編集されていたのだろうけれど。

つい先日も、息子から「お母さん、『騒音おばさんの真実』って知ってる?」と聞かれたばかり。何事も一面的に見てはいけないのだと、つくづく思う。

DSC03889

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です