イングランドの思い出(1)

高1の夏休み、初めて飛行機に乗って、イギリスで3週間ほどホームステイをした。ホストファミリーは30代のお母さんと、娘2人(11歳&10歳)と息子1人(5歳)の四人家族。場所はサリー州の、白人しか住んでいないような小さな村だった。私たち約10人の日本人グループのほかにも、相次いで外国からの学生たちがホームステイをしにやって来たので、私も3週間の間に、アメリカやドイツの高校生と相部屋になったりした。イスラエルの学生との交流があったり(マイムマイムを踊ったはず)、昼間、学校に行くと、授業の合間にイタリア人の高校生と出会ったりした(日本人グループを担当するイギリス人の先生からは、なぜかイタリア人たちと交流しないようにと注意された)。

夏休みの間は各国の学生が集まっていたが、普段は白人だけの保守的なコミュニティだったのだろう。有色人種にはまず出会うことがない場所だったので、近所の小さい子供たちが私を見ると、はやしたてた。そのたびにホストファミリーの次女カレンが、私を守るようにして、いたずら坊主たちを追い払ってくれた。彼女は私が学校から帰るのをいつも待っていて、一緒に遊ぼう!となついていたのだ。ある日、ふたりでテニスをしていたら、近所の悪ガキどもが通りかかり、私の方が弱いことをはやしたて、「イギリスが日本を打ち負かした!」と大声をあげた。それを聞いて怒ったカレンが、ガキ大将に戦いを挑み、「あんたはイギリス代表、私は日本代表よ」と試合を始め、あっさり相手を打ち負かすと、私に「日本が勝ったよ!」と誇らしげに言いに来てくれた。

そうやって仲良く過ごしていたのだが、ある晩、カレンが甘えに来て、私を驚愕させるお願いをした。胸を触らせてほしいというのだ。冗談かと思ったが、彼女はいたって真剣で、私が(必死で和英辞典をひきながら)丁寧に断ると、「私のことが嫌いなのか?」と悲しそうな顔をした。「そんなことはない」と答えると、「じゃあ、なぜダメなの?」と押し問答。それが何日も続いた。昼間は普通に遊び、夜になると、お願いに来る・・・ということの繰り返し。しまいには彼女の弟が私に手紙を届けにきたり・・・。ルームメイトのドイツ人の方が胸が大きいから、彼女に頼んだ方がいいとか、私はいろんな言い訳を考えた。

あとで考えると、彼女はきっと寂しかったのだと思う。詳しいことはわからないが、彼女の母親は離婚したばかりで、仕事を始め、新しいボーイフレンドもいたのだ。彼女によれば、お父さんは医師だったか、とにかく以前はもっと大きな家に暮らし、乳母がいたのだそうだ。で、そのお父さんが夏休みの約束として、子供たちをシンガポール旅行に連れて行ったので、私はようやくカレンから解放された(!?)。

まだ30代と若かったホストファミリーのお母さんは、昼間は学校の清掃員として働き、夜はたまに暗い居間で黒人のボーイフレンドとテレビを見ていた。あの村で、私は自分たち日本人グループ以外の有色人種に出会ったことがなかったので、初めて暗い部屋でお母さんの彼を見たときにはぶったまげてしまった。

彼女がそれ以前にどんな生活を送っていたかわからないが、おそらくかなりの激変を経ていたに違いない。あの村で黒人の彼と付き合っているというだけで、私は「このお母さん、すっごくかっこいい!」と思ってしまったのだけど、子供たちにはいろいろ苦労があったのかも知れない。当時の私はまだ若すぎて、英語も不自由で、お母さんにいろいろ話を聞けなかったのが、今でも残念だ。

*「里山物語」で有名な地区の棚田
DSC02883

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です